movie, call me by your name – memorandum #00001 –

05/14/2018

昨日、映画を観に行った。

久しく映画館で映画を観る機会がなかった。

なぜなら、新作のほとんどは、移動中の機内で観ることが多く、見逃した映画もそのほとんどを、契約している有料サービスのいずれかで観ていたから。

しかし、今回のCall Me By Your Nameは、公開後にできるだけ早く映画館で観たいと思っていた。

映画の内容に強く惹かれたことはもちろんのこと、大好きな映画「日の名残り」、「眺めの良い部屋」や「モーリス」といった映画で有名な脚本家ジェームズ・アイボリー(この映画でアカデミー脚色賞を受賞)の作品だと言うことが、その理由。

【レビュー】

一日経って、やっと映画の話の流れや、描き方を冷静に見つめることができる気がする。
正直、鑑賞中は、そのあまりにも甘美な仕上がりに、ちょっと食あたり気味だったから。甘い、ソフトな歯触りのキャンディを、なめ続けるかのような、そんな気分。
悪い意味ではなく、もちろんいい意味での甘美さなんだけれど。

甘美さの秘密は

甘美さは、
-イタリアの美しい景色を余すところなく映し出すところ
-主役俳優のカッコよさ
-甘い音色のピアノを中心とした楽曲
-おいしそうな食べ物の数々
それらからやって来ているのだと思う。

描写が、まるで生き物みたい

平面スクリーンに描かれる世界が、立体化して、その場にいるような感がしてくる。

空気感や匂いまでもが、目の前によみがえり、視聴していることを忘れて、その場に一緒にいるような錯覚を覚える。

窓を開けたままにして、木々を揺らす風が、部屋の中にさーっと入り込むような瞬間までもが、自然に感じられる。

暑さと涼しさ、そして明るさと暗さ。陰と陽。はっきりしたコントラストが、ほうぼうに散りばめられている感じも美しさを引き立てる。

映画館の大きなスクリーンで観ると、よりその魅力が良くわかるはず。

二人の恋の行方は

エリオとオリバーの、特別なとっておきのひと夏。かけがえのない空間と時間。

すべては架空の物語なんだとわかってはいるけれど、現実にすぐ近くにいる誰かの人生を観ているような錯覚。

共に慕いあう気持ちに気が付く瞬間がある。
しかし二人の気持ちは、その瞬間にスパークするのではない。

子供であるエリオの気持ちを、オリバーは利用しようと思えば利用し、コントロールできる立場。

しかし十代の彼の無邪気さを汚さず、受け入れ、慈しむ。

そして、その逆に、エリオは、ゆっくりと時間をかけ、自己問答しながら、己の生き方に選択を重ね、一つ一つの問いに答えを出しながら、彼の元へ向かってゆく。

人間が他者との交流を通して、変化していく過程、心の高まり、より逞しく成長、昇華する過程、そんな瞬間の積み重なり、それらが美しい。これが、この映画の真骨頂。

恋に落ちるのは、二人の男性

男性同士の恋。

けれど恋する気持ちには、性差などは関係ないと思う。
人が純粋に誰かを好きになる、誰かをもっと知りたくなる、誰かにもっと愛されたいと思う。

そんな普遍的な気持ちを、主人公達の純粋ななまなざしに感じ取れる。

だから、LGBT映画なんて見たくない、と決めつけることはせず、まず、観てほしい。
ストレートな人にも、十分に伝わるパッションがこの映画にはあるから。

アーミーハマーは

僕は映画を最初に見たとき、彼のちょっと仏頂面というか、硬さが気になった。

エリオ17歳の純粋無垢さと比べれば、役柄上24歳に設定された彼の立場は大人だと思う。

しかし、その歳の差がある事実をもってしても、彼の演技に感じた壁のようなもの、硬さにはちょっと引っかかった。

アメリカ人的な自信ありげなキャラクター的な要素を印象付けるため?あのような演技だったのか。やはり少し疑問が残る。

かといって、彼の演技が悪いことはない。

演出の上では、この硬さが、オリバーとエリオの間の、陰と陽の関係というか、(性格的な)違いを上手に引き出していたわけだから。

個人的には、彼の端正な顔は好み。
役柄上の育ちの良さや教養の高さがみなぎる感じといい。

彼自身は、石油王が祖先にいて、大金持ちファミリー出身だとか。それ故に、品位ある身のこなし方に、浮ついた感じがなく、説得感を感じたのかも。

豊かな心は、移ろいゆき、やがてなくものなのか・・・

映画の終盤で、父がエリオに語るシーンは、やはり印象的。

親が子を諭すというのではなく、人生の先輩として話しをする、アドバイスをすると言うのがふさわしいか。

その中で、「その時期にしか感じられない感受性で、生涯忘れず、財産となるような(誰かを愛する)思い出ができたことが、非常にうらやましい」と話す。

恋愛対象に対する否定でもなく、逆にその肯定とも思われる発言をした姿勢。

やはり、そこにジーンときた。
理解があり、教養のある父だからこそ、こんなセリフとを言えるのだろう。

普通こんなシーンを入れられたら、違和感を感じると思う。しかし、この父ならありえるだろうと・・・。

違和感なくこのシーンを受け入れられたのは、この映画が家族や友人など、主人公達を取り巻く背景を、ごく自然に丁寧に描写していたからこそかと。

認めたくないことの一つだけど、認めざるを得ない、感受性の衰え。

合わせて、このシーンでは、大人になるにつれて、感受性の感度が鈍く、どんどん何も感じなくなってしまうことへの恐怖も感じた。

映画の終盤に、ガーンと、心に大砲を打たれた感じ。
もう、戻りたくても戻れない若いころには・・・。
そして、もうあのころの完成や感情はないのかと・・・。
ほろ苦い、気持ちは映画を観終えた今も続く。

エリオは幸せなの?それとも・・・

初恋の、恋の行方という意味では、ハッピーエンドではない。

けれど、進歩的な彼の両親の存在は、彼にとっては最大の幸せなんだと感じる。

今でこそ、LGBTがテレビや雑誌で取り上げられ、社会の中での扱われた方は、腫物扱いレベルが和らぎ、若干緩和傾向にあると思う。

しかし、現在の世の中でさえ、まだまだ両親や身近な人にカミングアウトできないLGBTの人がたくさんいる。だから、僕は、エリオは、不幸せのどん底まではいかず、救われているのだと。

リベラルさを持つ母も魅力的

劇中で、「オリバーは、あなたのことが好きよ」などと、息子の恋愛を応援しているかのような一言を話すシーンは印象的だった。

そして、オリバーと分かれ傷心しきったエリオを、駅まで迎えに行き、そっと彼をやさしさで包み込む母と息子の二人きりのシーンも。

ファッション

短パン一つとっても、シャツ一つとっても、時代を感じる。

もちろん、80年代のファッションを知っている世代だから、違和感はない。
あんなダボっとしたシャツ着ていたなあとか、色使いは、原色が多かったなあとか・・・

ラルフローレンにアディタス・・・ロゴ入りの商品がたくさん出てきて、さらに掻き立てられる懐かしさ。

けど、80年代の短パンの長さって、あんなに短かった(笑)。思い出せない。

映画の長さ

6週間の間の人の気持ちの移り変わりを、丁寧に映画いた2時間越えの尺。

丁寧に描いたと言えば聞こえはいいけれど、ちょっとスローにも感じたというのが本音。

人によっては、物語が単調と言うかもしれない。同じようなシーンの連続に、「意味のなさ」を感じるとも。

しかしある意味無駄と思えるシーンは、心の変化とその行方を表現方法の一つだっただと思う。

無駄なシーンが多いと感じのるのは、現代人だからかもしれない。

現在の人と人の出会いや、気持ちのやり取りは、どちらかと言えばインスタント。即席性の上に成り立っている。

簡単にスマホを使って、文字と文字のやり取りを、あたかも人と人とのリアルな心のやり取りとすり替えて理解している。

ネットを使って簡単にコミュニケーションが出来て、動画やテレビ電話を使えば、あたかも距離がないかのように、人がコミュニケーションをとれる時代。

それに比べて、数十年前、80年代や90年代はそうではなかった。電子メールはなく、その代わりは手紙だった。
時間軸は、もう完全に異なり変わってしまっているのだ。だから、ある意味、単調、無駄と感じてしまうのかも。

昔のようなスローさに違和感を感じるのは、自分が、現在の即席性の上に成り立つ、刹那性あふれる時代の時間軸に、私たちが毒されている証拠なのかも。

サウンドトラック

絵画のような映像に、しっくりと似合うピアノの音色。
主人公達の移ろいゆく心情を、上品に引き出す音色が並び、飽きさせない。

二人が初めて結ばれるときに流れる歌や、エンドクレジットで流れる歌は、切なさが隠し切れなくなるほど美しく、涙腺を刺激した。

スフィアン・スティーヴンスの書き下ろし、「ミステリーオブラブ」は、一見静態な曲に見えるが、かなり動的な心に熱く訴えかける歌。

映画を観終わった後、坂本龍一が参加していたことに気が付く。同じ日本人が、名作に関わっていることは、素直にうれしい。

【あらすじ】

1983年、夏の北イタリア。
家族でヴァカンスにきた青年エリオは、父が教授として勤める大学の院生であるオリヴァーと出会う。

一緒に過ごして行くうちに17歳のエリオは、24歳の艶やかなオリヴァーに淡い恋心を抱くように。

しかし、夏の終わりにはオリヴァーがその地を去る事を意味し・・・。

美しい、清々しい夏の北イタリアを舞台にした、初恋模様、青年同士の心の重なり合いが描かれる・・・。

誰しもが感じる初恋のピュアなみずみずしさ、恋い焦がれる熱い想い、相手を思うがゆえに感じる胸が閉まるような思い、そんな一つ一つの気持ちを、思い出させる映画。

【公式サイト】

cmbyn-movie.jp/

【購入できる】

海外では、ブルーレイ化、DVD化済。

アマゾンで購入可能なブルーレイ版はリージョンフリー。

語学に自信のある方は、購入して、一足先にこの映画をプライベート・ライブラリーに加えても。
(ギリシャ神話とかの説明が出来たりする箇所は、難易度高い・・・)